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ワインのトリヴィアル・パスートVol.2【 エル・ブリのワインリスト 】

【 エル・ブリのワインリスト 】

ひと言で「ワインリスト」と言ってもさまざまで、その店に在籍するシェフソムリエのアート作品ともなり得ますし、レストランの顔の一部ともいえます。

電話帳のようにぶ厚くそのアイテム数を誇るレストランもあれば、ソムリエが厳選に厳選を重ね、300本程度のセレクトながらそのレストランを訪問するあらゆる顧客のニーズに応えている奇跡のようなリストも存在します。
またフランスのブルゴーニュ地方にある三ツ星レストラン「ラムロワーズ」のリストのように、電話帳のようなぶ厚さにもかかわらず、ボルドーワインが1本も載っていないという、フランスのグランメゾンではあり得ないであろう潔(いさぎよ)すぎるワインリストもあります。

今世紀に入り世界のレストランの王者として君臨したエル・ブリは、残念ながら2011年7月に閉店してしまいましたが、そのホームページに掲載されていたワインリストは、最先端にチャレンジし続けてきたレストランらしく大変ユニークなものでした。
Traditionalという通常のリストに加え、Advancedと名付けられた条件を選択してワインを絞っていくリストと、遊び心のあふれたゲーム感覚のリストのVirtual Cityという三つのリストで構成されていました。

オンリストされていたワインはと言うと、アイテム数は1,573アイテム、扱われている国はスペイン、フランス、イタリア、ドイツ、オーストリア、ポルトガル、スイス、ハンガリー、ギリシャ、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、チリ、アルゼンチン、南アフリカとなんと16カ国です。
われわれが通常目にするワインの生産国の中で、扱われてないのは悲しいことに日本くらいです。典型的電話帳タイプ。全体的な印象で言うと、有名どころをこれでもかと押し込んだ感じです。
スペインやフランスのグランヴァンは言うまでもなく、ロベルト・ヴォエルツィオのバローロ・チェレクイオの90年のマグナムがあったり、オーストラリアのクラレンドン・ヒルズのアストラリスが97、98、99年と複数ヴィンテージあったり、アルゼンチンのニコラス・カテナ・サパータもオンリストされていたりします。強いて指摘するとしたら、カリフォルニアのカルトワインが充実していないくらいでしょうか。
また、同一銘柄の複数ヴィンテージが扱われているのも特徴的です。ミゲル・トーレスのマス・ラ・プラナが10ヴィンテージあったり、スペインの至宝のひとつアルバロ・パラシオスのレルミタを1993年から2003年までの11ヴィンテージをそろえていたり、ちょっとマニアックなボーカステルのシャトーヌフ・デュ・パプ・ルーサンヌV.V.でさえ1995年から2001年までの7ヴィンテージもオンリストされています。

そして、もちろんシェリー酒も豊富で、デザートワインも160アイテムと日本では考えられない数量です。値付けで言うと、当時は1ユーロ約120円でしたので、この手の著名レストランにしては、そこそこリーズナブルな印象を受けました。
30ユーロ以下のフルボトルも23アイテムほど存在しましたし、また掘り出し物もありました。
例えば分かりやすい所で言うと、ルロワのミュジニー97年を749ユーロ、約9万円で飲めたのです。(ワイン1本の値段としては高いと言われればそれまでですが、楽天で一番安いヴィンテージのものでも当時23万円程度で販売されていました。)

エル・ブリのワインリストは、ソムリエの作品という印象は受けませんが、予約開始日初日で翌年の予約がすべて埋まったとか(かなりのお友達枠はあるようですが)、真正面から予約しようとすると倍率50倍だったとも噂される、世界中の美食家をターゲットとしたレストランのワインリストとしては完璧なもの、と言えたのではないのでしょうか。

※ エル・ブリ
天才シェフ、フェラン・アドリアが率いるレストラン。バルセロナの約150キロ北にあるロサスという町から更に7キロほど西に位置するカラ・モンジョイ(モンジョイ入江)という辺鄙な場所にある。1997年にミシュラン3星に昇格。スペインのグルメ評価本「ロ・メホール・デ・ガストロミア」で10点満点を唯一獲得したレストラン。また、イギリスの雑誌「ザ・レストラン・マガジン」が2002年に開始した「サンペルグリノ世界のベストレストラン50」で、初年度と2006年から2009年までの合計5回、1位に選ばれた。2011年7月30日閉店。