【 ブドウの品種 No.1 】
ワインを選ぶ時、味わいを想像するに一番の手掛かりとなるのはブドウの品種だと思います。
私はレストランでソムリエにワインを相談する時、必ずセパージュを聞きます。
ブドウ品種の知識が少しでもあればワインを選びやすくなると思いますので、主なブドウの特徴を簡単にまとめてみます。
今回はボルドーの赤ワインに使用される品種です。
規定では、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ、カベルネ・フラン、プティ・ヴェルド、マルベック、カルメネールの6種の使用が認められています。
カベルネ・ソーヴィニヨン
赤ワイン用ブドウの王様は、間違いなくカベルネ・ソーヴィニヨンです。
対抗馬としてピノ・ノワールがありますが、高級ワインの生産量では比べ物になりません。
しかし、ワインの長い歴史から見るとカベルネ・ソーヴィニヨンは新参者のようです。
最近の研究によるとカベルネ・ソーヴィニヨンは17世紀頃にカベルネ・フランとソーヴィニヨン・ブランが自然交配して誕生したもので、ボルドーでスターダムを駆け上がるのは、それまで主役だったマルベックやカルメネールがフィロキセラの影響で衰退した19世紀後半と言われています。
主な産地はフランスのボルドー地方のメドック地区とグラーヴ地区、そしてアメリカのカリフォルニア州です。
ボルドー地方では、タンニン分が多い重厚な長熟なワインができます。
色は濃く、カシス、シダーに例えられる木の香りがします。
そして私の中では、砂利道を歩いた時の少し埃っぽいような、そしてお日様の暖かい日差しの中にいるときに嗅ぐ大気のようなイメージがあります。
グレートヴィンテージのワインがうまく熟成すると黒コショウやトリュフの香りがします。
また80年代頃までは、オフヴィンテージでは(未成熟だと)ピーマン香がするのも特徴でした。(最近は醸造技術が進歩し、この香りが強いワインは減少しています。)
5大シャトーと呼ばれる1級シャトーのうち3つがポーヤック村に存在し、ポーヤック村は仔羊が特産品なため、仔羊のローストとのマリアージュは最高と言われています。
一方、カリフォルニアでは濃度の高い果実味豊かなジャミーなワインができます。
気候が温暖なこともありますが、コーラを生んだアメリカ人の趣味嗜好の影響もかなりあると思います。
近年は、やはり醸造技術の進歩から、ボルドーワインに似た味わいの物も増えてきて、バラエティーに富んだワインが生産されるようになりました。
メルロ
カベルネ・ソーヴィニヨンと並んで、ボルドーの主要品種です。
果実味豊かで、ボリューム感があるのが特徴とされカベルネ・ソーヴィニヨンより早く熟成します。
ボルドーではカベルネ・ソーヴィニヨンとメルロをブレンドし、それぞれの長所を生かすことにより銘醸ワインを生み出している、等と謳われます。(ピノ・ノワール単独で造られるブルゴーニュワインを意識した言い方で、この2品種の収穫時期の違いにより天候が悪い年でも品質を保てる要因となっています。)
カベルネ・ソーヴィニヨンが砂利質の土壌を好むのに対し、メルロは粘土質土壌が適していて、ボルドー右岸のサンテミリオン地区やポムロール地区が主要産地です。
特に、ポムロール地区ではメルロの比率が高いワインが多く、ボルドーワインの中では最も高い価格で取引されているペトリュスやル・パン等がその代表です。
田崎真也さんによれば「メルロはオイスターソースや甜麺醤等の甘辛いソースとの相性が良い」との事ですので、今度中華料理を食べる際に合わせてみてください。
また忘れてはならないのは、イタリアのトスカーナ州のボルゲリ地区のメルロ100パーセントからなるワインです。
テヌータ・オルネッライアのマッセート(ファーストヴィンテージ86年)、サン・ジュスト・ア・レンテンナーノのリコルマ(同93年)、トゥア・リータのレディガッフィ(同94年)、レ・マッキオーレのメッソリオ(同94年)、ペトローロのガラトローナ(同94年)等々。
レディガッフィやメッソリオを造ったイタリアのスター醸造家ルカ・ダットーマに言わせると「ボルゲリと比べればボルドー右岸は砂地」だそうです。
それだけボルゲリはメルロに適した土地ということで、実際飲んでみると、どれも素晴らしいワインです。
上記のワインは非常に高価ですが、最近はお手頃価格なワインもありますので、試されてみてはいかがでしょうか。
カベルネ・フラン
ボルドーワインの第3のブドウです。
主にサンテミリオン地区やポムロール地区でメルロの補助品種としてブレンドされます。
カベルネ・フランにフォーカスを当てている唯一の例外は8大シャトーの一つであるサンテミリオン地区のシュヴァル・ブランです。
年によって比率は変わりますが、約3分の2がカベルネ・フラン、残りがメルロからなり、その上品かつ妖艶な味わいは独自の世界を築いています。
カベルネ・フラン主体のワインと言えば、ロワール川流域のシノン(90パーセント以上)、ブルグイユ(90パーセント以上)、ソミュール・シャンピニー(85パーセント以上)です。
どれもカベルネ・フラン100パーセントで造られることが多いワインです。
ロワール川流域は、ボルドー地方より涼しいことから冷涼な気候に比較的強いカベルネ・フランが栽培されていますが、未成熟なカベルネ系の香りであるピーマン香がすることが多く(強いとあまり良い香りには感じません。)、最近は醸造技術の進歩で少なくはなっていますがロワールのカベルネ・フランを飲む時は注意が必要です。
プティ・ヴェルド
ボルドーの伝統的なブドウ品種の一つで現在も少量ブレンドしているシャトーは結構あります。
ヴィンテージによりますが、5大シャトーのラフィット・ロートシルト、ラトゥール、ムートン・ロートシルト、マルゴーにもブレンドされます。
以前ボルドーの生産者になぜプティ・ヴェルドを加えるのかを聞いたところ、「数パーセント加えることにより複雑さとスパイシーさが出るから」との事でした。
プティ・ヴェルド主体で有名なワインといえば、イタリアはシチリア州のパッソピッシャーロというワイナリーのフランケッティというワイン。(造り手のアンドレア・フランケッティ氏については、トリヴィアVol.18のワインコンサルタントで説明しています。http://wine-concierge.jp/)
基本はプティ・ヴェルドとイタリアの土着品種のチェザネーゼ・ダッフィーレとのブレンドですが、2005年のファーストリリース以来、2006年、2010年、2013年の3回だけはプティ・ヴェルド100パーセントで造られています。
マルベック
かつてはボルドーの主要品種でしたが、いまではほとんどボルドーワインでは見かけません。
ボルドーの有名ワインでマルベックを使用しているのは、サンテミリオン地区のシンデレラワイン、シャトー・ドゥ・ヴァランドローくらいです。
因みに、ムートン・ロートシルトとロバート・モンタヴィがジョイントして造った、あの有名なカリフォルニアワインのオーパス・ワンにも数パーセント使用されています。
現在はフランス南西地方のカオール(因みにマルベックを70%以上使用しないとカオールを名乗れません)とアルゼンチンが主要産地となっています。
マルベックは果皮が厚いため、非常に色が濃く濃度の高いワインになることから、カオールは「黒ワイン」と呼ばれ中世から名声を博していました。
しかし今のフランスワインにおいては、主流ではなく個性的なワインとして位置づけられます。
カオールはフォアグラの産地に近いことから、フォアグラとの相性は良いとされています。
一方アルゼンチンでは、マルベックは高貴な品種として扱われています。
果実味豊かで、長期熟成の可能なワインで、今やアルゼンチンを代表するワインとなっていますので、アルゼンチンの赤ワインを飲む時は是非マルベックを選択してみてください。
カルメネール
マルベック同様以前はボルドーの主要品種でしたが、19世紀のフィロキセラにより絶滅したと思われていたようです。
その後、カルメネールはメルロと混同されていましたが、近年カルメネールが生きながらえていることが分かり、ボルドーワインでもカルメネールの表示が時々見かけられるようになりました。
カルメネールを使うボルドーワインで名の通ったところでは、ムートン・ロートシルトのオーナーが所有するポーヤック村の5級のクレール・ミロン、マルゴー村の2級のブラーヌ・カントナックが挙げられます。(ヴィンテージによっては使用されない年もあります。)
チリでも90年代の半ばまでメルロだと思われていたようですが、現在は黒ブドウではカベルネ・ソーヴィニヨン、メルロに次ぐ3番目の栽培面積を誇り、カルメネールと聞けばチリワインをイメージするまでになりました。