【 タワーリング・インフェルノ 】
皆さん、タワーリングインフェルノという1974年に公開された映画をご覧になったことがありますでしょうか。パニック映画の走りで、今やパニック映画の金字塔と言われている作品です。
確固たる地位を築いていたポール・ニューマンと、飛ぶ鳥落とす勢いのスティーブ・マックィーンの本編テロップやポスターでの扱いをどうするかで揉めたことでも話題となった映画でした。(ちなみに苦肉の策で、本編では二人の名前はオープニング直後に下記のように同時に表示されました。)
PAUL
STEVE NEWMAN
McQUEEN
実はこの映画、ワインが大変重要なアイテムとして扱われているのですが、日本での公開当時、私はまだ中学生でしたので全く気付く由もありませんでした。
ストーリーは、サンフランシスコに138階建てのビルが建設され、300名ほどの来賓を招いた落成パーティーを135階フロアーで実施している最中に大火災に見舞われるというものです。
ワインは、ウィリアム・ホールデン演ずるビルのオーナー、ダンカンがロバート・ヴォーン (テレビドラマ・0011ナポレオンソロのソロ役で有名) 演ずる上院議員をパーティー会場で声をかけるシーンで登場します。
ダンカンが、「君を驚かすものがある」という話しかけに「政治家は驚かないよ」と談笑しながら、オーナーに忠実そうなバーテンダーの居るバーカウンターへ行きます。
そしてオーナーがバーテンダーに「隠しているものを上院議員に見せろ」と言うと、バーテンダーはおもむろにカウンターの下から木箱を取り出し、それを見た上院議員は驚いて「トゥエニーナイン」と一言。
木箱に目を移すとRomanée Conti‘29の刻印が読み取れます。
つまり、20世紀最高の当たり年で50年近く前のロマネ・コンティを、それも1ケース揃えたというシーンですが、ワインに詳しくなければ「トゥエニーナイン」という言葉の真意もわからないでしょうし、一瞬しか映らない木箱の文字に目をとめることもないと思います。
その後、火事は大きくなり大惨事となっていきます。
ビルの設計者のポール・ニューマンと消防隊の隊長であるスティーブ・マックィーンは相談しながら考えられるあらゆる手だてを次々と打ちますが火は一向に治まらず、とうとう屋上にある貯水タンクを爆破させて一挙に消火するという最後の手段に出ることになります。
大量の水がいっぺんに流れ出るため、消火はできるかもしれませんが、水流に飲まれ多数の死者が出ることも予想される方法でした。爆破前、135階に残された人々には水に流されないよう柱などにロープを使って自分を括り付けるよう指示が出ます。
すると、先ほど登場したバーテンダーは自分と共にロマネ・コンティを箱ごと一緒に縛ろうとします。それを見たオーナーが「ワインなどほっておけ」と言いますが、「でも29年ものですよ」と渋ります。
オーナーの言うことには常に忠実に従ってきたと思われるバーテンダーが酒の価値を知っているがゆえささやかな口答えをするこの一連の場面は、後の伏線となります。
そしていよいよクライマックスを迎え、爆発音と水流の音だけが際立つシーンが何分も続き、それまで登場してきた重要人物の運命が次々と映し出されていくのですが、その中くだんのバーテンダーは柱の下敷きとなり息絶えます。
そして最後、水が引けていく場面で、ロマネ・コンティのボトルが1本、ぷかぷかと水に流されていくシーンが何秒か続くのです。
なるほど!、この監督は近代的高層ビルを建設するような現代社会、ロマネ・コンティに代表されるスノッブ、格差社会に対するアンチテーゼとして、見た人のほんの一握りにしか伝わらないかもしれませんが、ワインをその象徴として扱い、パニック映画の衣装を纏いながら当時のアメリカ社会に警鐘を鳴らしていた、と気付いたのでした。
しかし、いつの間にかこのシーンがカットされてDVDなどに編集されるようになってしまい、現在手に入る素材でこのシーンを見ることができなくなりました。
私が一番重要だと思うシーンを誰が、そしてどうしてカットしてしまったか、どなたかご存じありませんか。