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ワインのトリヴィアル・パスートVol.40【 5大シャトー 】

【 5大シャトー 】

5大シャトーとは、ボルドーのメドック地区の格付けで現在1級を獲得している5つのワインを指します。繊細で妖艶ですが気難しいラフィット・ロートシルト、最も女性的と言われるマルゴー、最も男性的と言われるラトゥール、オフヴィンテージに強いムートン・ロートシルト、地味ながらプロからの評価の高いオー・ブリオン。それぞれをキーワードで紹介したいと思います。

シャトー・ラフィット・ロートシルト
・世界一
山本博氏の著書「ワインの女王」に、「フランスで最高を決めると言い出したらまとまりそうにないが、ブルゴーニュの連中すらロマネ・コンティと比べ、ラフィットの方を上に置こうというとしぶしぶあきらめる」と書かれています。1990年に書かれた本なので、今ならロマネ・コンティが世界一という方が主流かもしれません。
・格付け1位
 1855年に作られた格付けで1級に選ばれたワインの中でもトップを飾ったのがラフィット・ロートシルトです。
・ポンパドール婦人
 太陽王ルイ14世の時代は、宮廷晩餐会にはブルゴーニュのワインが振舞われボルドーワインは地酒のような扱いで見向きもされていませんでした。
 ルイ15世の時代になり、今のロマネ・コンティの畑が競売にかけられ、コンティ公とポンパドール婦人が競合した結果、コンティ公が勝利し、以降ロマネ・コンティという名のワインが誕生します。
敗れたポンパドール婦人は、代わりにラフィットを寵愛し、晩餐会に使用したことでボルドーワインの地位が一気に向上しました。

シャトー・マルゴー
・メンツェロプーロス家
 ボルドーのシャトーは資金が潤沢にないと品質を維持できないと言われています。メンツェロプーロス家は1977年にシャトー・マルゴーのオーナーになりますが、それ以前の62年から77年ヴィンテージまでのマルゴーは手を出してはいけないというのがボルドーラヴァーの常識となっています。プライベートで飲んだ感想は、78年、79年のワインは素晴らしく、天候の良くなかった80年のワインも美味でした。
・アーネスト・ヘミングウェイ
 「老人と海」や「武器よさらば」等で知られるアメリカのノーベル賞作家アーネスト・ヘミングウェイは、大のマルゴーファンで孫にマーゴ(マルゴーの英語読み)と名付けます。
 日本では、渡辺淳一の「失楽園」に登場することで有名です。
・パヴィヨン・ルージュ・デュ・シャトー・マルゴー
 ボルドーでは、ワインの品質を保つため、出来の良くなかったブドウや若木からのブドウ等を使用しセカンドワインを造ります。マルゴーでは、5大シャトーの中でもいち早く1908年にセカンドワインであるパヴィヨン・ルージュ・デュ・シャトー・マルゴーをリリースしました。ちなみにサードワインであるマルゴー・デュ・シャトー・マルゴーは2009年がファーストヴィンテージです。

シャトー・ラトゥール
・安定・長命
 シャトー・ラトゥールと言えば、ヴィンテージによる当たりハズレが無く安定的に高品質なワインを生み出すこと、そして長熟で孫に飲ませることのできるワインであること、で有名です。ハズレが無いので「金持ちはラトゥールだけを購入し飲んでおけばいい」と言われるようなワインです。
・プリムール
 ボルドーでは、ブドウ収穫の翌年のまだワインが樽の中にある状態で販売を行う先物取引が実施されています。
 資金を早く回収できるので生産者にとっては有利なシステムですが、2012年ヴィンテージからシャトー・ラトゥールはプリムール販売から撤退しました。
ラトゥール側からは、品質向上のためと発表されていますが、投機の対象の話とか色々な事情が複雑に絡み合っているのだと思います。
・サードワイン
 今はボルドーのほとんどのシャトーがセカンドワインを造っていますが、サードワインとなると数えるほどで、有名なところでは、前述のシャトー・マルゴー、サンテステフ村の2級のシャトー・モンローズ、同じくサンテステフ村の3級のシャトー・カロン・セギュール、ポーヤック村の5級のシャトー・ランシュ・バージュ等です。
シャトー・ラトゥールでは、1989年にポーヤックというネーミングでサードワインをリリースしています。
ちなみに、セカンドは1966年がファーストヴィンテージのレ・フォール・ド・ラトゥールです。

シャトー・ムートン・ロートシルト
・1924年
当時ワインは、樽でネゴシアンに売るのが普通でしたが、この年当主であるフィリップ・ド・ロートシルト男爵はシャトーでボトル詰めをすることを決断しました。
これを記念してグラフィックデザイナーのジャン・カルリュにデザインを依頼しオリジナルのエチケットを制作しました。
その後、他シャトーもこれに追随し自社でボトル詰めをするようになり、エチケットはワインの産地や品質を保証すると言う重要な役割を持つようになりました。
・1945年
フランスが第2次世界大戦に勝利したことを記念して、当時無名だった若い画家のフィリップ・ジュアンを使い、アートエチケットを復活させました。そして現在にいたるまで毎年異なったアーティストがエチケットのデザインを担当しています。
このことがムートンの最大の特徴であり、オフヴィンテージもコレクションの為に購入が減らず、また2種の絵柄が存在するヴィンテージは売り上げが増えるという現象がおきています。
また、1945年ヴィンテージのムートンを、史上最高の赤ワインに挙げる方が多々います。
バブルのころ、今はなき銀座プランタンでワインフェアがあった時、マグナムボトルがまるで美術品がごとくショーケースに入って展示されていました。
 ベンツのSクラスが買える価格で、その場に一緒にいた上司が「僕なら車を買うな」と言っていたのを今でも覚えています。
・1973年
メドックの格付けは、1855年のパリ万博で発表されて以来、何度も変更の動きがありましたが、様々なしがらみから未だ変わっていません。
唯一の例外がこのシャトー・ムートン・ロートシルトでオーナーの長年のロビー活動により1973年に2級の筆頭から1級に昇格しました。
ちなみに昇格を認めたのが当時の農業大臣のジャック・シラク、そして1973年のエチケットはパブロ・ピカソ。ピカソがこの年に亡くなったので、哀悼の意を表しムートンが個人所蔵する絵を採用。ムートンのエチケット用のオリジナルではない数少ない1枚です。

シャトー・オー・ブリオン
・グラーヴ地区
1955年の格付けはボルドーのメドック地区のワインに対して行われました。
しかし、オー・ブリオンはすでに名声を得ていたので、メドック地区から少し南に離れたグラーヴ地区から唯一選出され1級を獲得しました。
・ジェファーソン
アメリカの第3代大統領のトーマス・ジェファーソンは大のワイン好きで知られています。
ジェファーソンが駐仏大使だった時、シャトー・オー・ブリオンを訪れワインを買い付けアメリカに送ったので、ホワイトハウスで最初に供されたフランスの高級ワインがオー・ブリオンだそうです。
ちなみにジェファーソンに関しては、「世界一高いワイン ジェファーソン・ボトルの酔えない事情」というノンフィクションの本が発刊されています。
・白ワイン
グラーヴ地区の多くの生産者は赤ワインと一緒に白ワインも作っています。オー・ブリオンでもシャトー・オー・ブリオン・ブランというセミヨンとソーヴィニヨン・ブランを約半々づつ使用し造ったワインがあります。間違いなくボルドーで一番の辛口白ワインですが、生産量が800ケース程度なので手に入れづらいワインとなっています。勿論、価格もいいお値段ですが。