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ワインのトリヴィアル・パスートVol.41【 8大シャトープラス2 】

【 8大シャトープラス2 】

前回、ボルドーの5大シャトーを紹介しましたが、これらは歴史あるボルドー左岸地区のワインです。新興勢力であるボルドー右岸のサン・テミリオン地区のシャトー・オーゾンヌとシャトー・シュヴァル・ブランとポムロール地区のシャトー・ペトリュスを加え、近年は8大シャトーと呼ばれています。シャトー・ペトリュスが元祖シンデレラワインですが、シンデレラワインのポムロール地区のシャトー・ル・パンと新シンデレラワインのサン・テミリオン地区のシャトー・ヴァランドローを加えた5つのシャトーを(私は勝手に10大シャトーと呼んでいます)前回同様にキーワードで紹介します。

シャトー・オーゾンヌ
・コート地区
サン・テミリオン地区は、 石灰や粘土質の多い土壌でメルロ種に適したコート地区と砂利質の多い土壌でカベルネ・フラン種に適したグラーブ地区に分かれます。コート地区の代表がこのシャトー・オーゾンヌです。
・不調
オーゾンヌは1920年代から1975年に至るまで長いことその品質においてワインラヴァーを失望させてきたと言われています。またそれ以降も2つのオーナー家の内紛があり、完全復活はオーナーが一人になった1995年ヴィンテージからと言われています。
・名前
古代ローマのガリアの長官であり詩人であったアンソニウスがオーゾンヌという名前の由来と言われています。日本では、大損を連想させることから投資家等のお金持ちに人気がないため、8大シャトーの中では最も話題に上らないワインです。

シャトー・シュヴァル・ブラン
・カベルネ・フラン
サン・テミリオンのグラーブ地区の代表がこのシュヴァル・ブランで、セパージュの比率はカベルネ・フランが3分の2、メルロが3分の1とボルドーの名だたるシャトーの中でこれだけカベルネ・フランの比率が高いシャトーは無く、唯一無二のワインとなっています。(セパージュ比率は年によって異なりますが、上記は伝統的な比率です。)
・1955年
サン・テミリオンは1955年に初めてシャトーの格付け制度を導入します。
12のシャトーがプルミエ・グラン・クリュ、72のシャトーがグラン・クリュに選ばれました。プルミエ・グラン・クリュの中の別格としてシュヴァル・ブランと前述のオーゾンヌが選ばれました。ちなみにメドックの格付けとは違い見直しが行われていて、現在はプルミエ・グラン・クリュに18シャトー、グラン・クリュに64シャトー認定されています。そして、シャトー・アンジェラスとシャトー・パヴィが別格として加わり別格は4シャトーとなりました。
・飲み頃
シュヴァル・ブランが語られる時に、必ず出てくる特徴が飲み頃の幅が最も広いワインというものです。若い内から美味しいので、熟成し本当の実力を発揮しないうちに飲みつくされてしまう懸念があると言われています。

シャトー・ペトリュス
・元祖シンデレラワイン
シャトー・ペトリュスは、ポムロール地区No.1のワインですが、歴史的にポムロール地区そのものが注目されていなかったので、1889年のパリ万博で並みいるシャトーの中で金賞を取ったりしても名が知られる程度でした。実際、人気が急上昇するのは1960年代後半で、その生産量の少なさから瞬く間にボルドーで一番高い価格、それも5大シャトーの3~5倍程度の価格で取引されるようになりました。
・メルロ
ポムロール地区は粘土質土壌なので、メルロに栽培に適していると言われています。
メルロが95パーセント、カベルネ・フランが5パーセント栽培されていて、ヴィンテージによりセパージュは異なりますが、メルロ100パーセントの年も多く、近年は常にメルロのみで造られています。メルロから造られる世界一のワインはと言われれば、シャトー・ペトリュスで異論は出ません。
・ジャン・ピエール・ムエックス社
ジャン・ピエール・ムエックス社は、ボルドー右岸のワインを専門に扱うワイン商として1937年に設立されました。そして、1947年にペトリュスの独占販売権を得、1964年に共同所有者、2002年には単独オーナーとなりました。その他にも、ポムロールにシャトー・ラ・フルール・ペトリュス、シャトー・トロタノワ、シャトー・ラトゥール・ア・ポムロール、シャトー・オザンナ、シャトー・プロヴィダンス、サン・テミリオンにシャトー・マグドレーヌ、カリフォルニアにドミナス等々と至極のワインを生産しています。

シャトー・ル・パン
・シンデレラワイン
シンデレラワインとは、一般的にはほとんど無名だったワインがあるきっかけで注目を浴び、瞬く間に高値で取引されるようになったワインのことを指します。映画モンドヴィーノで描かれていた典型的なパターンのように、1979年がファーストヴィンテージのシャトー・ル・パンはミッシェル・ロランをコンサルタントに雇い、1982年ヴィンテージにパーカーが100点をつけブレイクしました。そして年産7000本程度という生産量の少なさも手伝い、時には先述のペトリュスよりも高い価格で取引されるようになりました。
・マロラクティック発酵
多くの赤ワインはアルコール発酵後、リンゴ酸を乳酸に変えるマロラクティック発酵というのを行います。ル・パンは、この発酵を新しいオーク樽で行う先駆者で、このことが、ル・パンが比類するものがない独特な偉大なワインとなる理由とされています。
・ライバル
シャトー・ル・パンのオーナーであるティアンポン家は、ペトリュスを目指しル・パンを造り始めたそうです。ライバルと言われるようになったペトリュスのオーナーのクリスチャン・ムニエックス氏のセミナーに以前、参加したことがあります。そのセミナーで、ル・パンに関する質問が出た時、少し小バカにしたように、「スタイルが全然違う。ル・パンは過熟させすぎ。」と言っていました。ブドウを最大限成熟させるために収穫を限りなく遅らせるというミッシェル・ロランの考えを皮肉っているようにも受け取れました。通訳を介してですので、実際の口調はわかりませんが。

シャトー・ヴァランドロー
・新シンデレラワイン
1991年がファーストヴィンテージのヴァランドローは、1993年ヴィンテージをパーカーがこのヴィンテージにおけるベストの1本と評したことでシンデレラとなります。92年、93年、94年という困難なヴィンテージに偉大なワインを造ったため、素晴らしいヴィンテージにはどんなワインができるかという期待値を込めた評価で、先物買い的にブレイクしたワインです。実は、現在に至るまで一度もパーカーポイントで100点を獲得したことのない、ある意味稀有なシンデレラです。
・ランティルディ・ド・ヴァランドロー
訳すと禁じられたヴァランドローとなります。オーナーであるジャン・リュック・テュヌヴァンは、2000年のヴィンテージで、雨による害を防止するためにヴァランドローの畑の一部をビニールシートで覆いました。このことをアペラシオン当局が認めなかったため、この区画から造るワインをテーブルワインに格下げせざるを得ず、牢屋の格子をモチーフにしたエチケットにランティルディ・ド・ヴァランドローと銘打ち、なんの変りもないという抗議の意味も含めリリースしました。しかしパーカーポイントでは、通常のヴァランドローよりも低得点の評価でした。以前パーカーが、中身が同じエチケット違いのワインで5点くらいの差をつけてしまったという事件があったこともあるので、品質が異なるかどうかは闇の中ですが。ちなみに、個人的に購入し飲んでみた結果は(同時購入しましたが飲み比べをしたわけではなく2年ほどのタイムラグがあります。)、どちらも美味でしたが別物の印象を受けました。