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ワインのトリヴィアル・パスートVol.51【 007のワイン 】

【 007のワイン 】

ワインは小説や映画やドラマなどの小道具としてよく使われます。
私が最も気に入っているのはトリヴィアル・パスートVol.4で書いたタワーリング・インフェルノで、ワインに意味を待たせているであろうことに触れている記載は私が知る限り他にはありません。逆に多くの方が書かれているのが映画の007シリーズだと思います。
私も扱おうと思ったのが4年前で、それから全話をDVDで購入し、やっとチェックし終わりました(疲)。
あらためて全話を見ると、色々と新たな発見がありました。私の世代ですと、やはり007といえばショーン・コネリーなのですが、一番スーパースターな007はどうやらピアース・ブロスナン演じるジェームス・ボンドのようです。その象徴的シーンが第18作の「トゥモロー・ネバー・ダイ」のオープニングのシーンではないでしょうか。機会があれば、是非一度ご覧になってください。
逆に、ダニエル・クレイグになってからの脚本は、007が身勝手に振る舞いチョンボしまくるストーリーになってしまいます。ネタバレになるので詳しくは書きませんが、自らトラブルを大きくし、ボンドに味方した仲間はことごとく殺されてしまうというストーリーで、この手の娯楽映画は今やトム・クルーズ主演のミッション・インポッシブルに取って代わられてしまった印象があります。
また、特殊な装備を積んだいわゆるボンドカーもすべてのシリーズに登場するわけではなく、第5作の日本を舞台にした「007は二度死ぬ」では日本車史上でナンバーワンとの定評のあるトヨタ2000GTが登場しますがボンドカーではありません。ボンドカーとして使用される車は圧倒的にアストンマーチンが多く、ロータスエスプリが2作、BMWが協賛したとかで3作で登場します。見る側としてはやっぱり英国車でないと、ですよね。「ワインは」、というと必ず登場はするのですが、意味を持って使われているのはロジャー・ムーアの007まででしょうか。設定は、ジェームス・ボンドは酒に非常に詳しく、必ず一家言あるというものです。その象徴がドライマティーニで、ドライマティーニは通常はステアで提供されるのですが、ジェームス・ボンドは必ず「シェイクで」とオーダーするので、バーでボンドマティーニと言えばシェイクされたドライマティーニが飲めます。シェイクした方がまろやかになるので、女性がバーで「ボンドマティーニを」ってオーダーするのは相当かっこいいと思いますし、店側には一瞬緊張が走ると思います(笑)。
以下、ワインに関する特徴的なシーンを挙げてみます。
第1作の「ドクター・ノオ」で、敵役のドクター・ノオにディナーに招待された時、ボンドがワインクーラーに入ったシャンパーニュボトルで殴ろうとして、ボトルネックを一瞬握るシーンがあります。ドクター・ノオが「それはドンペリの55年だぞ。」と言った時、「53年の方がいいよ」と応じますが、ショーン・コネリーのボンドでは特にこの手の会話が定番となります。ワインに一番意味を持たせているのが第2作の「ロシアより愛をこめて」でしょう。原作者のイワン・フレミングは大のロシア嫌いと言われ、ロシアには高級品などなく、ロシアのスパイは色々と訓練はされていますが所詮田舎者で、ワインに関して無知であることを強調します。映画の名作「スティング」でギャングの親分を、そして「ジョーズ」で船長を演じたロバート・ショウがロシアの殺し屋役です。オリエント急行の食堂車で、ボンドと味方のふりをした殺し屋は舌平目のグリルをオーダーするのですが、ボンドはテタンジェ・コント・ド・シャンパーニュ・ブラン・ド・ブランを、殺し屋はキャンティをオーダーします。コンパートメントに戻り殺し屋に頭を殴られたのち意識を取り戻したボンドは、「魚に赤か。あの時気付くべきだった」と言うのに対し、殺し屋が「ワインに詳しくてもお前の負けさ」というやり取りがあります。キャンティは有名なワインですが、この映画発表された1963年はスーパートスカーナ以前なので、完全に落ちぶれていた時代です。魚に赤と言うだけではなく、ロシア人が知っていてかつ高級だと思っているワインは、キャンティくらいだろうという皮肉が込められています。
第7作「ダイヤモンドは永遠に」のラストで、豪華客船で過ごすボンドとボンドガールに殺し屋二人がディナーを運んでくるシーンがあります。持ってきたのはシャトー・ムートン・ロートシルトの1955年ヴィンテージ。ソムリエに扮した殺し屋のコルクの抜き方がまるで素人なのと、殺し屋のつけているアフターシェーブローションの匂いが強いことからソムリエではないと見破り、「この料理にはクラレット(英語でボルドーの赤ワインを表す単語)の方が合う」とカマをかけ、ソムリエが「あいにくご用意がありません」と応えると「このムートンこそクラレットだよ」と、お決まりの格闘シーンになります。
第9作の「黄金銃を持つ男」ではタイが舞台なのですが、ボンドがボンドガールとディナーをしている時にタイ産のプーヤック1974年というワインが登場します。多分ポーヤックの名を模したワインでそれも白ワイン。ボンドがワインを一口飲み、ボンドガールの方を見ながら「いいね」と言うと、ボンドガールは「本当?」と応えますが、「ワインじゃない。君のドレスだよ。」というやり取りをします。東南アジアではホンダの歯磨き粉とか売っていたりするので、そのイメージなのでしょう。
第12作の「ユア・アイズ・オンリー」では、ボンドの協力者として登場するギリシア人と夕食を取る時、協力者が自分の故郷のケファロニアのロボロというブドウから造られる白ワインを勧めますが「私がとった料理には少し香りが強いので、Teotaki Asproを」というシーンがあります。このTeotaki Asproというワインがよくわからないのですが、テオトキー・エステートというワイナリーのホームページに、私たちのワインが007に使われたというのが出てきましたので、ここの白ワインのことかもしれません。通常は見る人が見ればわかるような設定にしなければならないと思うのですが、製作スタッフがギリシャワインのことをよく知らず、このシーンを撮ってしまったような気がします。
第14作の「美しき獲物たち」では、エッフェル塔にあるレストラン、ル・ジュール・ヴェルヌでボンドがフランス人の私立探偵に会うシーンがあります。私立探偵が、シャトー・ラフィット・ロートシルトの59年を勝手にオーダーし「勘定はそちら持ちで」と、フランス人がケチで有名なことを想起させます。因みに現在のル・ジュール・ヴェルヌはミシュラン1星のレストランで、パリ16区にあるミシュラン3星レストランのル・プレ・カトランのフレデリック・アントンがシェフです。
これ以降の作品では、ワインに意味合いを持たせたシーンは無くなります。
どのようなワインが使われたかをわかる範囲で表にしました。

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