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ワインのトリヴィアル・パスートVol.68【 ミシュランガイド 】

【 ミシュランガイド 】

ワインは、食中酒であり、マリアージュという言葉があるように、単独で飲むというよりは食事と合わせて飲むものだと思います。
もちろん、家飲みも楽しいのですが、フレンチ等の手の込んだ料理はなかなか家庭で作れるものでもないので、レストランでの食事も重要となってきます。
ミシュランガイドを、発行しているミシュラン社は、1889年創業のタイヤメーカーです。
当時、車での旅行は便利だったとは言えなかったため、ミシュラン社は、より安全で快適な旅行のために、市街地図、自動車修理工場、ガソリンスタンド、宿泊施設、レストラン等を紹介した実用ガイドを1900年から無料で配布を開始したのがミシュランガイドの始まりです。
1920年からは販売をするようになり、1926年に星を付けるシステムを導入しました。
当初は星を付けるか付けないかの評価でしたが、1931年にはフランスの地方で、1933年からはパリで3星による評価制度を導入しました。
そして1956年に北イタリア版が出版され、その後スペイン版等のヨーロッパ圏版が出版されるようになりました。
今世紀に入ると、経営的赤字を解消すべく、調査対象を全世界に拡大していきます。
2004年には、ヨーロッパ以外では初のニューヨーク版が出版され、2007年には欧米以外では初となる東京版が発行されました。
ヨーロッパ圏版と、その他の地域版とでは、体裁が全く違うので、私には別物のように思えます。
また、ヨーロッパ圏だけだったときは、内装やサービスも評価の対象となり、ミシュランの調査員は「トイレまで評価の対象にする」と、レストラン側からは悪評がたったりしていましたが、今世紀に入り、「皿の上だけで評価する」という方針に変わると、これまた「他文化の料理を果たして評価できるのか」と批判が起きました。
私の感想を正直に申し上げると、星の数自体はかなりいい加減なものに感じてしまいます。
まあ、参考にするしないは個人の自由だと思いますので、とやかく言う気はないのですが、実力とかけ離れた評価を良くも悪くもされてしまう料理人達はちょっとかわいそうな気がします。
一方、ミシュランが上陸したことで、日本が恩恵に預かっていることも多い気がします。
経営戦略で日本版を出すのであれば、評価は厳しいよりは甘くしたほうがいいに決まっています。
その結果、フランスのレストランよりも日本のレストランが獲得している星の数は多くなり、(公式には都市単位での数で1位は東京、2位はパリ、3位は京都、4位は大阪、5位がロンドンです。)美食の国という地位が確立しました。
そのことが、外国人観光客増加に間違いなく寄与し、日本経済にとってはプラスに働いていると思います。
実際のレストランの顧客を見ると、高級店はミシュランガイドよりは、世界のベストレストランの順位のほうを参考にして来店されている方が多いように見受けられますが、安価な方は明らかにミシュランガイドを参考にしているのでしょう。
2018年に日比谷に香港から上陸した添好運は、香港で2010年に1星を獲得しているため、世界一安いミシュランの星を獲得しているレストランをうたっていましたが(実際は2015年に巣鴨の蔦が1星を獲得しています)、ディナーであればアルコール代込みで5000円くらいは支払うことになります。
一方、東京版ではラーメン店も星を獲得しているので、大塚の鳴龍とかは1000円程度で1星の料理を味わえることになるので、観光客が大行列をなしています。
食べ手としては、行きたいレストランの予約が取れなかったり、今まですぐに入れた店が、大行列だったりとデメリットはあるのですが、メリットとしては、「すし屋は銀座に店を構えることが夢」と言われたように、世界の一流のシェフが日本に進出したいと思うようになり、出店が目白押しなことです。
例えば、世界のベストレストランで2023年に1位を獲得したペールーのセントラルは、2022年に永田町にマスを開き、2019年に1位を獲得している南仏のミラズールが2023年に大手町にスィークルをオープンさせたりと、東京に居ながらにして、食べたかった料理の片鱗を味わえるようになりました。