【 別れのワイン 】
刑事コロンボシリーズの中で、世界中のファンに人気の高い「別れのワイン」という作品があります。
邦題の「別れのワイン」もすばらしいタイトルだと思いますが、原題は「Any Old Port in a Storm」で、大変洒落ていると思います。
このタイトルは英語の慣用句の「Any Port in a Storm」にひっかけたもので、これを直訳すると「嵐のときは、どんな港(ポート)でもありがたい」、日本の諺で言うと「窮余の一策」となります。
この作品は最後まで犯人逮捕の決定的な証拠はなく、コロンボが窮余の一策的な手段で犯人を追いつめようとし、その時利用したワインがフェレイラの1945年のヴィンテージポート(オールドポート)でした。
ヴィンテージポートにとって1945年は偉大な年ですし、フェレイラもポートを代表する会社ですのでいい選択だと思います。
傑作と言われる作品、秀逸なタイトル、よく考えられた邦題ではありますが、しかしワインの観点だけから見れば、ところどころ不満が残ります。
作品の中の日本語では、カベルネ・ソーヴィニヨンの発音が変だったり、シャブリをシャブリス(最後にSは付きますが)と言ったりして、私は、そのたびに作品から引き離されてしまいます。
まあ当時、日本にはワインの情報が余りなくしょうがなかったのかもしれません。
そして、犯人がコレクションしていたワインを破棄する最後のシーンでコロンボがその中の象徴として言及するワインがシャトー・ディケム(甘口ワインの最高峰。オールドポート同様、食事の締めに飲まれることが多いワイン)の1938年なのですが、翻訳ではなぜか1952年に変わっています。
残念ながら、どちらもソーテルヌの当たり年ではなく、翻訳でヴィンテージを変更した意味も分かりません。
(翻訳では、わかりやすくするためにしばしば手が加えられることがあります。「死者の身代金」という作品の空港ラウンジのシーンで、コロンボは勤務中なのでアルコール飲料ではないルートビールを頼むのですが、日本人には馴染みがないため、グレープジュースを頼んだことにしています。)
わが子のように大切にしていたワインに断腸の思いで別れを告げるシーンを代表する1本であるなら、偉大な年を選んでもらいたかったところです。
近い年で選ぶとすると、英語版であれば1937年、日本語版であれば1955年ならビッグヴィンテージですので納得できたのですが。